大判例

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東京高等裁判所 昭和40年(う)1111号 判決

被告人 田辺真一

〔抄 録〕

所論は、原判示第二について、背任罪の損害の認定標準については財産上の損害の存するや否やは民法上の観念に従つてこれを決定するを要するのであつて、民法上の観点から財産上の損害を考えると、原判決の事実認定の通りとすれば、右抵当権設定行為は無効であり、民事上抹消さるべき運命にあるもので、結局本件においては損害は発生しているとすることはできないというものである。

よつて検討すると、証拠によれば被告人は本件土地の所有者安島唯一から本件土地の売却方を依頼されて登記済権利証、同人の白紙委任状及び印鑑証明を預かつており、これを野々貞市に示して本件取引について正当の代理権があると申し述べてその旨同人を誤信させたことが認められるから、いわゆる表見代理の法理により本件抵当権の設定は有効であると認められるのみならず、仮に所論のようにそれが効力を有せず、その登記は抹消さるべきものとしても、現実に抵当権設定登記がなされている以上本件土地の売買価格にも消極的影響を及ぼすし、又これを抹消するのに種々の手数と経費を要する事態となるので刑法第二四七条にいわゆる財産上の損害を加えたことになるのは多言を要しないところであるから、本件において財産上の損害がないとする所論は採用の限りでない。

なお、原判決は本件財産上の損害額を一〇〇万円の債務額に相当する損害と認定しているが、前述のように仮に本件抵当権設定登記が無効で抹消さるべきものとすれば、その損害額は必ずしも債務額と一致するとはいえないこととなるので、原判決はこの点において事実を誤認したといわざるを得ないのであるが、背任罪においてはその損害の数額が具体的に明白でないとしても、とにかく財産上の損害が具体的に発生しているか又は財産上の実害発生の危険が具体的に生じていると認められる以上同罪の成否に影響を及ぼすものではなく(大審院大正一一年五月一一日判例集一巻二七〇頁、大正一三年一一月一一日判例集三巻七八八頁等)、しかも財産上の損害が加えられたと認められることは前述した通りであるから、右の事実の誤認は明らかに判決に影響を及ぼすものとは解せられない。

(足立 栗本 浅野)

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